動力集中方式と動力分散方式について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを、わかりやすく解説します!
今回は、動力集中方式、次回は動力分散方式についての解説です!
全2回にわたって解説します!
動力集中方式とは?
動力集中方式は、ひとつの車両に動力を集中させることをいいます。
ここで動力とは、シンプルに「鉄道車両を動かす力」のことです。
鉄道の場合の「動力」とは、例えば
- 電気(モーター)→主に「電車」で使われる。
- 軽油(ディーゼルエンジン)→ディーゼル機関車、気動車などで使われる。
- 水と石炭(蒸気機関)→蒸気機関車で用いられる。
などがあります。
つまり、鉄道は、これらの力(動力)によって動いているというわけです。
- 自動車は「エンジン」で動く
- 人間は「心臓」で動く
というように、鉄道もモーターやディーゼルエンジン・蒸気機関などの「動力」で動くわけです。
現代ではあまり採用されない方式
ちなみにその一方で、「列車※」を構成する車両の多くに対して、複数の動力を持たせた方式のことを、動力分散方式といいます。
※ちなみに、ここでいう「列車」とは、複数の車両で組成された車両を意味します。
車両が「列」をなして、複数の車両がつなげられて(連結されて)連なっているから、列車というわけです。
もちろん、1両のみでも列車と呼びます。
つまり、たくさんの車両に対して、モーターを載せたような方式を、「動力分散方式」というわけです。
たとえば、もし先頭車両だけ等に対してモーターを搭載していれば、それは先述の「動力集中方式」です。
そして当然ながら、この両者はそれぞれに長所・短所があるため、うまく使いこなせないと、電車はまともに走ることができないのです。
最悪、エネルギーを無駄に使ったり、運賃がはね上がることだってあるのです。
もちろん、この「長所・短所」については、今回・次回の計2回について、じっくり解説・考察してゆきます!
あなたも是非これらを考えながら、読み進めていってください。
現代ではほとんどが「動力分散方式」
ちなみに、現在の日本の旅客列車のほとんどが採用しているのは、後者の動力分散方式のほうです。
その詳しい理由については後述しますが、一応先に言ってしまうと、
です。
動力集中方式の例
動力集中方式は、例えば
- 列車が、主に1両から2両のみからなる、動力車によって引っ張られる(または、後ろから押される)
という方式のことです。
例えば、蒸気機関車をイメージしてもらえればわかりやすいですが、あれは
- 先頭に「自力で動ける蒸気機関車」が、「自力で動けない、お客様の乗る車両(客車)を引っ張っている」
というわけです。
この場合、動力は先頭の車両(蒸気機関車)のみに集中しているため、動力集中方式というわけです。
また、急勾配など、上り坂がきつい区間では、最後尾にも機関車をくっつけて、後ろから押し上げる、という場合もあります。
このように、動力集中方式は、例えば蒸気機関などといった「動力」が、1ヵ所または2ヵ所のみに集中している方式になります。
これだとコストも構成も単純・シンプルなので、昔はこうした形式も多かったのでした。
主な動力集中方式の電車の種類
そして、代表的な動力集中方式の鉄道といえば、
- 「蒸気機関車(SL)」
- 「貨物列車」
などの存在があります。
蒸気機関車は、先述の通り、典型的な動力集中方式の例です。
それは機関車が、(後ろに連なって繋げられている)お客様を乗せるための車両である「客車」を引っ張っているという、まさにさのイメージですよね。
貨物列車も、ディーゼル機関車などが、(その後ろに連なっている)荷物を載せるための車両(貨車)を引っ張る、という形式となります。
そのため、こちらも動力集中方式の例ということになります。
動力分散方式とは?
一方「動力分散方式」とは、列車を編成する車両のうち、複数の車両に対して、モーターなどの動力源が、あちこちに分散して搭載されている方式のことです。
- 多くの(複数の)車両が、動力(モーターやディーゼルエンジンなど)を持つ方式
のことです。
なぜこんな方式を取るのかというと、当然メリットがあるからです。
詳しくは後述しますが、先に言ってしまうと
- 「たくさん動力源やブレーキがあるため、加速・減速がしやすい」
- 「特に、勾配区間(上り坂)に強い」
などです。
詳しくは後述します。
そして、日本で営業運転をされている、すなわち「お客様を乗せて運ぶ旅客列車」のほぼすべてが、この「動力分散方式」を採用しているというわけです。
現代では、この「動力分散方式」が主流
ちなみに先述の通り、特に
- 「高速化」
- 「乗り心地」
を重視している現在の旅客列車(お客様を載せることが目的の列車)においては、後者の動力分散方式が主流です。
この動力分散方式では、モーターなどに始まる「動力」をあちこちの車両に搭載し、車両全体で「分散」しています。
そのため、周辺地域への振動や騒音が軽減されます。
それは、動力集中方式に比べて、各それぞれの車両に対してかかる負荷が分散されることにより、周辺地域への振動や騒音が軽減されるというわけです。
一方、動力集中方式では負荷が一ヵ所に集中されるため、周辺地域への振動や騒音が大きくなってしまいます。
さらに、後述するように、動力分散方式のデメリットは、技術の進歩により、ほぼ克服されてきています。
動力集中方式のメリット・デメリットを考える
動力集中方式には、以下のようにメリット・デメリットがたくさんあります。
そして動力集中方式は、繰り返しにはなりますが、現在ではあまり使われない方式です。
それを念頭に、以下を読み進めていってもらえればと思います。
動力集中方式のメリット
まず、動力集中方式における客車・貨車は、自身の車両では動力装置をもっていません。
- 客車:お客様だけを載せることを目的とした車両で、自力では動けない。蒸気機関車等によって引っ張られることで、初めて動くことができる。
- 貨車:同じく、石炭や農作物などの「荷物」を載せることだけを目的とした車両で、同じく自力では動けない。機関車に牽引されることで、初めて動く。
動力集中方式では、こうした客車や貨車ををニーズ(運ぶ量)に応じて増備していく
(つまり、連結して増やしていく)ためのコストが安くなります。
まあ、「客車」や「貨車」はそのままだと言わば「箱」なわけなので、そのシンプルさゆえに、動力分散方式と比べて編成が簡単だというわけです。
つまり動力集中方式は、列車の編成がしやすい、ということですね。
したがって、動力集中方式には、
- 客や、荷物を運んだりする需要が、頻繁に増えたり減ったりする
など、需要がランダムに変化しやすい環境では、臨機応変に対応しやすくなるというメリットがあります。
以上、まとめると、動力集中方式では、
→とりあえず貨車を繋げちゃおう!
メリット:維持管理・メンテナンスがしやすい
動力集中方式では、動力が機関車のみに集中しています。
そのため、点検・メンテナンスの手間を少なくすることができます。
したがって、動力集中方式では
というメリットがあります。
そりゃ、複雑で手間がかかるのは、客車や貨車よりも機関車の方ですからね。
メリット:客車での騒音が少ない
また、動力集中方式では
- 「客室での騒音や振動が少ない」
というメリットがあります。
動力集中方式は、モーターなどの動力が、お客様の皆さんが乗る車両(客車)に搭載されていない場合が多いといえます。
そのため、一部の「モーター音が好きな鉄道ファン」にとっては、モーター音がまず無い動力集中方式は、いわば「つまらない方式」であるともいえるでしょう。
すなわち、動力集中方式では、あくまで「客車」に限っては、
- 振動が少ない
- 騒音が少ない
というメリットがあるわけです。
しかしトータルでは、やはり周辺地域への騒音は軽視できない
動力集中方式では、動力や重さが1ヵ所に集中しているため、線路へのガタガタが大きくなり、トータルでは周辺地域への騒音は大きくなります。
これが動力集中方式が用いられなくなった要因の一つでもあります。
メリット:非電化区間への乗り入れも容易
動力集中方式では、例えば
- 電気機関車→ディーゼル機関車
などのように、先頭で引っ張る機関車のみを交換することにより、
- 異なる電化方式の区間への乗り入れ(例:直流区間→交流区間へ、など)
- 非電化区間への乗り入れ
などが容易になります。
これは例えば、
- 電化区間では、電気機関車を連結し、引っ張ってもらう
- 非電化区間では、ディーゼル機関車を連結し、引っ張ってもらう
とすることで、様々な路線を走行することができるようになります。
なぜなら、日本の鉄道は、
- 直流区間
- 交流区間(しかも、富士川を境に、50Hzと60Hzに分かれる)
- 非電化区間
など、非常に多くのタイプの線路が存在するのです。
そのため、極端な話、全く同じ車両のみを使って北海道の稚内から、鹿児島県の枕崎まで行くことはできないのです。
話がずれましまが、こうして先頭の機関車を臨機応変に取り替えることにより、利便性が高まるというわけです。
動力集中方式のデメリット
重さのバランスが偏る(前だけが極端に重くなる)
動力集中方式では、どうしても1ヵ所に重さが集中しやすくなります。
そのため、
- 列車の重さ
- 軸の重さ
が、動力分散方式よりも大きく偏りやすくなる、というデメリットがあります。
一般的には、自分の力で動くことができる動力車(機関車)の方が、極端に重くなります。
逆に、自分の力では動くことができない(人様を乗せる)客車の方が軽くなります。
デメリット:機関車が重いと、地盤が弱い地域でおぼつかなくなる
また、機関車はとても重いために、
- 地盤が軟弱な地域
- 地震のような振動が起きやすい地域
で高速で走行したりするときは、
- 線路の狂い(ガタついたりする)
- 振動(線路が揺れる)
などの問題が発生したりします。
デメリット:重いと、線路が破損しやすくなる
このように機関車が重いことにより、
- 線路(レール)がズレたりする
- 線路にガタがいったりする
ということが起こりやすいのです。
また、線路が揺れるために、まるで地震のような揺れが起きて、周辺地域に迷惑がかかる、などのことが起こったりします。
デメリット:橋を通るときにも、注意が必要
また動力集中方式では、いわゆる「橋」においても、許される「重さ制限」の値を大きくとる必要があります。
機関車は「重い」ためですね。
つまり車両が重すぎると、橋が落ちてしまうリスクもあるわけです。
蒸気機関車は「重い」 最初期の鉄道は、よくレールが機関車の重さに耐えきれずに破損していた
余談ですが、19世紀のイギリスで、ジョージ・スチーブンソンという偉人が最初期の蒸気機関車を造っていたとき、
- 線路(レール)が蒸気機関車の重さに耐えきれずに破損しまくってしまい、
- 何度もレールの強度を改良しまくった
というエピソードがあります。
詳しくは、以下の記事でも解説しているため、ご覧ください。

デメリット:加速に弱い
特に勾配区間(上り坂)で、加速力が弱くなる
動力集中方式では、列車が走り始めたしたときの加速度が、動力分散方式よりも低くなってしまきます。
というか、そもそもの動力源が少なくて限られているため、加速性能が低下しがちになってしまうのです。蒸気機関車は、上り坂では本当に苦労してしまいます。
このとき、坂道を一生懸命に引っ張っている機関車君は、
そしたら僕ももう少し楽ができるのに~!」
とかって思いそうですよね。(笑)
※そして実際にそれに近い構造になっているのが、動力分散方式となります。
動力が集中している機関車で、坂道を引っ張るのはやっぱりきつい
このように、動力集中方式の機関車は特に、
- 上り勾配
- カーブの多い(または急な)、曲線区間
での加速が難しく、高速運転を維持することが難しくなってしまうという場合があります。
一方、動力分散方式であれば、複数の車両(動力)によって、加速を手伝うことができるわけです。
したがって、特に上り勾配(上り坂)では、動力分散方式に比べて、
というデメリットがあるといえます。
ブレーキをかけにくいため、カーブ等に弱くなる
また、動力集中方式は、カーブにも弱いです。
狭い日本列島の場合は、
- 曲線(カーブ)
- 下り勾配(下り坂)
- 高速での通過が困難となる、分岐器(ポイント?)
などが多く存在します。
なので、狭い日本列車を走る列車は、カーブや「下り坂」に頻繁にさしかかることになるため、必然的にブレーキ操作を多く必要となってくるわけです。
そのため、動力集中方式ではなお一層不利となってしまいます。
このように動力集中方式では、ブレーキを制御(コントロール)するための動力源が限られています。
そのため、動力分散方式と比べて、ブレーキ性能が低下する可能性があります。
一方、動力分散方式は、複数の車両でブレーキをコントロールできるため、ブレーキの効きがいいわけです。
これが、一つしかブレーキが存在しない動力集中方式と比較したときのメリットです。
高速運転をする新幹線などでは、動力分散方式の方がメリット大
新幹線のような高速で走る列車においては、
- 高速走行
- 高い加速度
- 柔軟な運用
が求められるため、動力分散方式が採用されています。
一方の動力集中方式では、これらの要求を満たすことが難しく、デメリットの方が目立つため、一般的には採用されていません。
動力集中方式における「行き止まり駅」での対処法など
先述の通り、動力集中方式では、機関車を用いるケースが比較的多くなります。
そのため、いわゆる「行き止まりの駅」での対処法も重要になります。
なぜなら、機関車は
- 「逆方向へ進めない(一部のケースを除く)」
- 「自力では回転できない」
- 「自力で向きを変えられない」
というケースも考慮しなければならないからです。
向きを変えるときには「転車台」「機回し線」も必要になる
動力集中方式では、
- 終着駅(行き止まり構造の駅・線路)
- スイッチバック(※詳細はこちらを参照)
で折り返すときには、
- 機関車の交換
- 機回し(転車台や「機回し線」を使って、機関車の方向を、逆側に回転させること)
などといった作業が必要となります。
ちなみに機回し線とは、
- 行き止まりになっている線路において、
- 別に用意された迂回用の線路を経由して、
- 反対側(逆方向)へ逃げられるように設定された線路
のことです。
したがって、機回し線では、機関車が逆方向にも走行できるように設計されている必要があります(これを「逆機」といい、蒸気機関車がバック運転するという、ちょっと珍しいイメージです)。
つまり、基本的に前にしか進めない機関車の場合においては「機回し線」は使えないため、「転車台」という大きな回転台の上に載せて、機関車をグルっと回してやる必要性があるわけです。
電気機関車は、逆方向へも進めるように設計されている
一方、電気機関車は、基本的には(進行方向へ全体の向きを変えてあげる必要がないよう)、逆方向にも走行できるように設計されています。
そして先述の通り、蒸気機関車は基本的に逆方向へ進むことはできません(一応「逆機」という方法で逆へ進めたりもしますが、高度な運転技術が求められます)。
そのため、車両ごと回転させてあげるように、昔ながらの「転車台」が必要になってくるわけです。
つまり、地面に大きな円い台があり、この上に機関車を載せて、グルっと回してあげるわけです。
推進回走とは?
「行き止まり駅」などの対策例としては、
- 上野駅~尾久車両センター(東京都)
における区間では、機関車が客車(=お客様が乗る車両)を後ろから押して進むという、いわゆる推進回送を行なっています。
推進回送とは、
- 通常は「列車を引っ張る立場」である機関車が、
- 列車の最後尾(いちばん後ろ)につなげられ(連結され)て、
- 客車を押すようにして、回送する運転方法
になります。
特に、頭端式ホーム(※)などのような、「機関車を先頭への付け替える作業」が難しいような駅において、客車を回送するときに用いられます。
※頭端式ホーム:行き止まりになっている構造のホームのこと。
上野駅に到着した寝台列車は、機関車が「逆方向に」寝台車を「押して」進む
上野駅の地平ホームは、頭端式ホームです。
具体的には、13番線から17番線までの、頭端式ホームのことをいいます。
そして、ここでは線路が行き止まりになっているという構造になっています。
上野駅に「地平ホーム」が存在する理由
では、なぜ上野駅に「地平ホーム」が存在するのか。
上野駅の地平ホームは、
- かつての東北地方からの終着駅としての名残。(→集団就職。)
- かつてここで荷物輸送の役割を担っていたという、歴史的な背景
から存在します。
つまり、
- かつて高度経済成長期のときの集団就職で、
- 上野駅は多くの若者たちが夢とロマンを持って東京へ来た玄関口となった
ことから、その名残を今に伝えています。
この場合、機関車はそのままでは折り返しできない
ここで、上野駅に到着したカシオペア(※)などの寝台列車は、機関車の付け替え作業をすることがでません。
なぜなら、これ以上先がないためです。
したがって、機関車が客車を押してゆき、尾久車両センターまで回送されます。
このとき、先頭の客車には推進運転士が乗り込み、最後部の機関車とうまく連絡を取り合いながら、慎重に尾久車両センターまで運転してゆきます。
まとめ:動力集中方式の長所・短所
現代の主力方式ではないが、メンテナンス面においては未だに強みも
このように動力集中方式は、
- 上記のようなデメリット
- 動力分散方式の方がメリットが多いこと
もあり、今では主流のやり方ではありません。
しかし
- 維持費・コスト
- メンテナンス
の面では、動力分散方式は未だに有利な点も多いといえます。
次回は、動力分散方式について
今回は長くなったので、次回は、動力分散方式について解説してゆきます!
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