動力集中方式と動力分散方式について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを、わかりやすく解説します!
動力分散方式とは?
前回で、動力集中方式についての解説をしました。
一方「動力分散方式」とは、列車を編成する車両のうち、
- 多くの(複数の)車両が、動力(モーターやディーゼルエンジンなど)を持つ方式
のことです。
つまり、あちこちの車両にモーターなどの動力が分散している方式です。
これにより、例えば坂道などで加速しやすく、有利になるわけです。
また、列車のモーターにはブレーキも搭載されています。
そのため、たくさんのブレーキで減速もやりやすくなるため、動力集中方式と比べて有利になります。
現代では、この「動力分散方式」が主流
日本で営業運転をされている、お客様を乗せて運ぶ列車(旅客列車)のほぼすべてが、この「動力分散方式」を採用しています。
高速化や乗り心地を重視する旅客列車では、動力分散方式が主流です。
動力分散方式では、車両全体で動力を分散しているため、トータルで周辺地域への振動や騒音が軽減されます。
これがもし動力集中方式だと、例えば機関車など特定の車両に「重さが集中」してしまうため、走行中に線路がガタガタと音を立てやすくなります。
そのため、お客様が乗る「客車」ではモーター音などは当然しませんが、トータルでは周辺地域への騒音は大きくなるというわけです。
動力分散方式は、例えば高速鉄道や通勤電車など、多くの高性能(加速性能など)が特に求められる旅客列車において、採用されています。
また、後述するように、動力分散方式のデメリットは、技術の進歩により、ほぼ克服されてきています。
動力分散方式のメリット
いわば動力集中方式のデメリットをカバーしている
- 全ての車両に対してモーターなどの動力源が分散して存在しているため、きつい勾配・坂道における加速が得意。
- また、同じく上り勾配での、高速での走行が得意。
- たとえカーブの多い区間であっても、上記の理由により頻繁に加速をできる。
- また、モーター等の動力源にはブレーキもついているため、減速性能も高い。
- 上記の性能により、出発や停車にかかる時間が短くなる。そのため、トータルとして運行時間を短縮することができる。
そして、これらのメリットはいずれも、
- 都市を走る通勤列車
- 新幹線
には、とても必要な要素となってくるわけです。
モーターには「ブレーキ機能」もある!
先述の通り、鉄道車両のモーターは、ブレーキ機能も備えています。
中でも、特に「回生ブレーキ」という、
- モーターを発電機として利用して、
- 動きをコントロールする力(制動力)を得る
というシステムが一般的です。
回生ブレーキは、減速をする時に「運動エネルギー」を「電気エネルギー」に変えます。
電車だけではく、自動車でも使われています。
そして、その電気エネルギーをバッテリーに蓄えていく(回収する)ため、こうすることでエネルギーを効率的に利用できるようになっています。
そのため、
- 環境負荷の低減:電気のリサイクルにつながっている
- 燃費の向上:少ない電気や燃料で、より電車や車を動かすことができる
に貢献しています。
もちろん、この「回生ブレーキ」以外にも、
- 空気ブレーキ:摩擦で減速するという、かなり原始的なブレーキ方法。しかしシンプルで導入・運用しやすいため、現代でも用いられている。
- 発電ブレーキ
など、他の種類のブレーキも併用されています。
これらのいろんな種類のブレーキを使って、鉄道はブレーキをかけるわけです。
結局、動力集中方式と動力分散方式、どっちがいいの?
加速・減速・勾配・カーブでメリットの多い、動力分散方式
ここまで解説してきた通り、動力集中方式における最大のデメリットは、
- 加速性能
- 曲線を通過するための性能
が低いことでした。
それはやはり、
- モーターなどの動力が一つ(多くて二つくらい)しかついていないため、複数ついている動力分散方式と比べて、劣ってしまう
というわけです。
- 動力分散方式は、ブレーキ搭載の動力(モーター)を、多数搭載している。
- ブレーキがたくさんあれば、下り坂・急カーブやポイント(線路の分機器)にさしかかったとき、スムーズな減速ができる。
- 動力がたくさんあるので、坂道や「カーブ→直線」に入ったとき、加速もしやすい。
近年の傾向
しかし近年では、動力分散方式の貨物列車(例:JR貨物M250系電車など)も登場してしています。
そのため、従来の動力集中方式の貨物列車は、今や減少傾向にあります。
初の動力分散方式の貨物電車・M250系電車
ちなみに、M250系電車は、2002年に登場した、日本貨物鉄道(JR貨物)の貨物電車です。
このM250系貨物列車は、
- 複数の車両に動力・モーターを分散させている
という、まさしく画期的な動力分散方式の貨物列車です。
この貨物電車は、モーダルシフト(※)を推し進めていくことを目的として製造された車両です。
※モーダルシフトとは、CO2削減を目的として、トラック輸送などから、貨物列車など昔の方式に戻すことをいいます。
また、M250系貨物列車は、従来の貨物列車ではありえなかった、時速130㎞という速度を実現し、高速トラックにも対抗できるような仕組みとなっています。
つまりM250系貨物列車のように、性能を上げることで、自動車に頼らないモーダルシフトを実現しようとしているわけです。
貨物輸送も、動力分散方式へシフトチェンジ
これまで・従来の貨物列車では、機関車が貨車を引っぱる(牽引する)という形式の、動力集中方式が一般的でした。
この貨物列車のイメージは、かなり誰もが思い浮かびやすい、メジャーな方法といえるでしょう。
しかし近年では、先述のM250系電車なども登場してきたため、動力分散方式による貨物列車の数は、むしろ今や増加していっています。
このように、日本では貨物列車においても動力分散方式の導入が進んでいます。
したがって、動力集中方式による貨物列車は、今や減少傾向にあります。
モーターが静かになっている
近年の鉄道のモーターは、騒音に優しい、静かなモーターがたくさん開発されています。
さまざまな高性能なモーターが採用されることで、騒音レベルが大幅に低減されています。
以前は、たくさんモーターがたくさんある動力分散方式は、客席に静かに移動したいお客様にとっては、客席の騒音が大きなデメリットでした。
騒音が気になる人は、モーター車を避けて乗る(あるいは指定席券を買う)といった工夫も必要だったことでしょう。
ちなみに、
- モーターを搭載している車両を、動力車
- モーターを搭載していない車両を、付随車
といいます。
つまり、かつてモーター音がすごかった時代、気になる人は付随車を選んで乗る必要があったのでした。
しかし、 近年はモーター音が静かになってきていることにもあり、騒音はあまり発生しない傾向にあります。
したがって、動力分散方式にありがちだったモーター音の問題は、もはやあまりデメリットとは言えなくなってきています。
モーターの性能向上、騒音の低下へ
さらに、近年の鉄道車両では、モーターが進化していっていることにより、
- モーターの小型・軽量化
- モーター自体の改良・進化
- 防音対策の強化
- そして何よりも、静音化技術の進歩
などにより、以前と比べてモーター音が大幅に減少し、また走行時の騒音が大幅に低減され、ほとんど気にならないレベルにまで抑えられています。
技術の進歩により、動力分散方式のデメリットはもはや無くなってきている
こうした技術の進歩により、動力分散方式のデメリットは、以前より小さくなっています。
特に、
- 車両が故障したときの、原因の特定がやりやすくなってきている
- メンテナンスが効率化してきている
- 製造コストの削減
が進んでいます。
近年では、これらの動力分散方式のデメリットを克服するための、さまざまな技術開発が進んでいます。
故障を診断する技術の進化
したがって、もし車両に故障が起きたとしても、
- 車両に搭載されたセンサー
- データ収集システムを活用
することで、故障した箇所を素早く、迅速に特定できるようになりました。
これでもしAIが導入されたら、膨大な故障パターンから迅速に故障箇所を見つけ出し、人間では実現不能なスピードで故障を直したりとかしそうですよね。
細かく部品で管理・作業をする「モジュール化」
動力分散方式において修理・メンテナンス等のコストが下がった要因の一つに、モジュール化があります。
ここでモジュール化とは、細かく部品化をして作業しやすくすることです。
モジュールとは、「部品」などの意味です。
なぜモジュール化するのかというと、一部分だけが故障したときに、全体を治す必要がないからです。
つまり、部品だけを取り替えれば、治るというわけです。
逆に、もしモジュール化していないと、たった一部分の故障でも、全体を直さなくてはならない羽目に陥り、コスト・労力とともに甚大なものになってしまいます(※)。
※これを「保守性が下がる」という言い方をします。
このように、動力に関係する装置をモジュール化(部品化)することで、全体をいちいち治す必要がなくなったのでした。
これにより、メンテナンス時の交換作業が容易になりました。
これにより、従来はメンテナンスに時間のかかっていた動力分散方式においても、メンテナンスにかかる時間を短縮できています。
製造技術の向上・コストの低下
製造コストがかかることは、動力分散方式におけるデメリットでした。
それは動力をたくさん分散するため、鉄道車両のコストもその分跳ね上がってしまうからです。
しかし近年では様々な改善(高性能化・技術の進歩)により、動力分散方式であっても、製造コストが下がっています。
メーカー間の競争激化により、低価格化へ
さらに、鉄道車両メーカー間における価格競争が激化していったため、コストをお互いに下げていくという競争が起きていったのでした。
こうした競争原理も、コスト低下の一因となっています。
もし鉄道メーカーが複数存在せずに一社だけで独占されていたら、例え努力せずに「高い・悪い部品だけ作ってあぐらをかく」状態であったとしても売れてしまいます。
それは、その会社から買うしかなくなってしまうからです。
こうなると競争原理が働かずに、
- 値段も下がらず、高品質なものを手に入れるためには、相当高いものを買わなくてはならない
という状況が生まれてしまうわけです。
この鉄道部品メーカー同士の「競争原理がもたらした価格低下」などの要因により、動力分散方式の車両も、以前に比べて低コストにて導入しやすくなってきています。
まとめ
以上、動力分散方式ではこれらの技術進歩により、デメリットは以前よりも小さくなっています。
それにより、効率的で経済的な、車両の運用が可能になっています。
それでは、ここまで動力集中方式・動力分散方式における、それぞれのメリット・デメリットについて解説してきました。
このように、物事には何でもメリットとデメリットが存在します。
しかし
ということも、知って・理解しておいてもらえば嬉しい限りです。
以上、今回はここまでです。
お疲れ様でした!
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